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名古屋家庭裁判所 昭和53年(少)4805号 決定

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

(非行事実)

少年は、名古屋市中村区を中心とする暴走族○○○の構成員であるが、昭和五三年九月二日深夜三重県桑名郡○○町○○「スナック○○」において名古屋市を中心とする暴走族×××の一員で○×グループのDが×○連合と称する暴走族グループに殴られ、車両のタイヤ及びホイルを取り替えられたことから、上記×××らの集団をもつてその仕返しを企てたところ、そのころ○○○もこれに加り×○連合に報復しようと考え、

1  同年九月一〇日午前零時頃、愛知県海部郡○○町大字○○字○○「レストラン○○」の駐車場に、名古屋市を中心とする暴走族の構成員ら約二〇〇名が共同して×○連合と称するグループを襲い他人の身体財産に危害を加える目的をもつて、その多くが木刀・角材・棒切れ等を所持して集合した際、兇器の準備のあることを知つて他の○○○の構成員とともに集合した、

2  同年九月一〇日午前三時頃、岐阜県海津郡○○町○○××番地の×○○食品前路上において、角材棒切れ等を所持する一〇数名と共同し、R所有の普通乗用車セリカ××た××号に襲いかかり、同車のボンネット・ボディを角材で殴打するなどの乱暴を加えて損壊し、約四〇万円の損害を負わせた

ものである。

(法令の適用)

1の事実につき 刑法二〇八条の二第一項

2の事実につき 暴力行為等処罰ニ関スル法律一条、刑法二六一条

(非行事実を認めた理由)

少年は、本件当夜友人Aとディスコ「○○○」へ遊びに行き、その後友人B方に泊まつたもので、本件事件に加担していない旨主張する。

I  しかし少年が本件事件に加担し上記非行事実を犯したことは、当裁判所で調べた関係証拠中、下記指摘の証拠で認められる。

なお下記証拠は、いずれも少年を実兄N・Gや他の○○○構成員と識別して供述してあり、少年の言動につき誤認したとの事情は窺えない。

1  N・Gの司法警察員に対する昭和五三年一〇月二六日付供述調書(以下単に「一〇、二六付」という)、一〇、二七付

(1) N・Gは、少年の実兄で、当審判廷において本件当夜は自動車が故障中でありレストラン○○にも赴いていない、警察官指摘のとおり供述しないならば逮捕される旨脅かされ虚偽の供述をした旨証言する。

(2) しかしN・Gの当夜の行動についての証言は、同人運転の自動車に同乗したEとFの各一一、一三付、一、一四付、一一、一五付検察庁での弁解録取書の記載内容と著しく相違し、他の関係証拠とも照らし措信できない。次に同人を取調べた警察官Sの証言によれば、逮捕についての法律上の手続について説明したことは認められるが、警察官の取調べに迎合するよう要望し、さもなくば逮捕する旨述べた事実は認められない。その他捜査に違法な点があるとも窺われない。

以上のとおり同人の証言は措信できない。

(3) 上記供述調書は、具体的であり、他の関係証拠とも符合し措信できる。

2  Eの一一、一三付、一一、一四付、一一、一五付検察官に対する弁解録取書

N・G運転の自動車の同乗者で、逮捕直後の一一月一三日の弁解録取の段階では否認していたがその後自供し、自供後の供述は一貫しN・G、Fら関係証拠とも符合し、十分措信できる。

3  Fの一一、一三付、一一、一四付、一一、一五付検察官に対する弁解録取書

N・G運転の自動車の同乗車で、逮捕直後の一一月一三日の弁解録取の段階では否認していたがその後自供し、自己の知つている者のみの名を供述し、自己が誘われ加わつた経緯について子細に供述しており、措信できる。

4  Gの一一、一付、一一、七付、一一、二付検察官に対する弁解録取書、一一、二付検面

Gは○○○の構成員で、九月二九日及び一〇月一九日の在宅での取調べの際にはレストラン○○に参集したことはあるも、同所から○○町のスナック○○、次いで四日市方面へ走行し帰宅した旨供述していたが、一〇月三一日逮捕された後一一月一日の取調べにおいて供述を変更し、○○○の他の構成員同様海津及び大垣現場へ赴き、構成員が×○連合と認めた者を襲撃した旨具体的詳細に供述し、次いで一一月二日の検察官の取調べにおいても二度にわたる襲撃の事実を認め図面作成の経緯についても供述し、一一月七日岐阜少年鑑別所での取調べにおいても一一、二付調書を読み聞かされたうえ一部供述を訂正補足しておるもので、他の○○○の行動につき上記供述調書はいずれも措信できる。ところで少年の九、二九付及び一〇、一九付は、上記供述調書と対比して明らかなとおり海津及び大垣現場での襲撃部分の状況を省略したものであり、後記5の内妻のH子の供述調書とも相違し、その後Gにおいて供述を変更しているものであり、たやすく措信できない。

5  H子の一一、四付、一一、五付

Gの内妻で、G運転の自動車に同乗していたが、その供述は自分の関知していることのみを供述したもので、作為的なところはなく十分措信できる。

6  Iの一一、六付、一一、七付、一一、八付、一一、九付、一一、一〇付

Iは、○○○構成員で事件の数日前からの×○連合への報復に対する○○○の対応ぶりを詳細に供述し、事件夜の喫茶店「○○」での構成員らの集合状況、レストラン○○への参集状況、その際の集合していた者の兇器の準備状況海津現場への走行状況、海津現場でのIを含め○○○構成員の襲撃状況、大垣現場での襲撃状況などについていずれも詳細具体的に供述しているもので、その後○○○の犯行を隠秘するため相談したとも述べているものであり、その供述は逮捕直後の弁解を述べた一一、一付供述調書を除き一貫しており、共犯者を陥し入れるなどの意図的な点も窺われず十分措信できる。

7  Jの一〇、二五付、一〇、二六付、一〇、二七付

Jは、○○○の構成員で、本件当夜自己の自動二輪車CB四〇〇を運転しCを後部に同乗させて参加したものであるが、逮捕勾留されていた一〇月一七日から一〇月二四日までの取調べの際には、レストラン○○に赴いたものの、兇器が準備されていた事実もなく二度にわたる襲撃にも加わつていない旨供述し、他の○○○の者の服装行動についてもあいまいな供述をしていたが、一〇月二五日から全面自供し、自供後の供述は一貫しており自己の行為についても詳細に供述しており、作為的なところは窺われず、上記調書は措信できる。他方Jの一〇、一七付、一〇、一八付、一〇、一九付検察官に対する弁解録取書、一〇、二〇付、一〇、二三付、一〇、二四付は、供述記載から明らかなとおり○○○の構成員、レストラン○○での参集状況を徐々にくわしく供述しているが、海津及び大垣現場での襲撃状況を省略し若しくはあいまいに供述しており、J自身の当夜の行動の供述も後記10のCの供述調書と著しく相違し、関係証拠とも相違し、たやすく措信できない。

8  Kの一一、八付

上記4、5のG、H子の供述とも符合し、措信できる。

9  Lの一〇、二〇付、一〇、二四付

○○○の構成員で、事件夜レストラン○○へ行くまでのいきさつから参集状況につきくわしく供述しており、十分措信できる。

10  Cの一〇、一二付、一〇、一六付、一〇、二三付

(1) Cは、○○○構成員で、J運転の自動二輪車に同乗したものであるが審判廷において、事件当夜×○連合に報復する話は聞いておらず、一部の構成員とレストラン○○へ行つたが○○○の者は海津や大垣には行かなかつた、レストラン○○ではI、N・G、少年らの姿を見ていない、一〇月一二日と一〇月一六日の取調べの際警察の捜査に迎合しないならば逮捕勾留される旨言われ、多数人の警察官から事情を聞かれ怒られたため、やむなく嘘の供述をした、一〇月二三日には実父とともに前回の供述を訂正して貰うために出頭したが、実父が帰り警察官から従前と異なる供述内容の調書を作成することはできないと強く言われたため再び犯行を認める供述内容の調書が作成された旨証言する。

(2) しかし○○○の構成員が旗を掲げて海津や大垣の非行現場へ赴いていることは、Mの一〇、二付など関係証拠から明らかに認められるところ、上記1乃至9の供述調書によればCにおいて事件夜○○○の旗を掲げていたことが認められ、C証言は乗車したJの上記7の供述調書と著しく相違しており、1乃至9の供述調書に照らしたやすく措信できない。

次に取調べ状況について、警察官Sの証言によればCは一〇月一二日呼び出しに応じて実父とともに出頭し、警察官Sにおいて一人でCを取調べたところ当初はレストラン○○へ行つたが犯行現場へは行つていない旨述べていたが、その後一転して自供し一〇、一二付供述調書記載の供述をなしたもので、その際警察官Sにおいて通常の逮捕手続について説明しているものの、捜査官に迎合する供述をしない場合逮捕勾留する旨述べた事実は認められず、次の一六日の取調べの際、実父とともに出頭し警察官Sにおいて一人でCを取調べたところ、先の供述を翻えすことなく詳細に供述し、実父立会のうえで調書の読み聞かせをしており、その間取調べに違法な点は窺えない。そして一〇月二三日Cは実父に連れられて自ら出頭し、実父においてCの従前の供述は全て嘘でもう一度事情を聞いて欲しい旨述べ、そのため警察官Sは再度Cから事情を聞くことになつたが、Cは実父の退席を求めたため、実父退席のうえ警察官Sに対し「父親がグループ員のことや自分のことについてやつていないと言うようにきつく言われたので一緒にきたのですが、刑事さんの顔をみますとこの前言つたことが事実ですから僕やグループ員のやつていることについてうそであつたなどと今更いえません」旨述べ、従前供述したうち記憶の判然としないNの件だけ訂正したほか他の供述は間違いない旨述べ、一部供述を補足して取調べを終え、Cにおいて警察官Sに対し実父には少年自身本件非行に関係しなかつた旨説明して欲しいと依頼したため、警察官Sは虚偽にわたらない範囲で父親に説明したことが認められ、上記取調べの際、Cにおいて従前の供述を著しく翻えし供述記載の変更を強く求めた点は窺えず、またCが供述変更を求めたのに警察官Sにおいてこれを拒絶したものとは窺えない。

以上によればCの取調べ状況についての証言は信用できない。

(3) Cの一〇、一二付、一〇、一六付調書は、未だ○○○の構成員についての捜査が十分なされていない段階でなされたものであるが、その供述内容は具体的詳細であり、その後取調べられた○○○関係者の供述調書と概ね符合しており、上記(2)のとおりその供述の任意性は疑いはなく、同調書は十分措信でき、また一〇、二三付も同様に措信できる。

II  少年主張のアリバイの事実は認められない。

1  証人Aの証言

Aの証言によれば、同人は高校生で夏休み等の休暇や学校からの帰宅後アルバイトをいろいろなし、近隣の○○○構成員と親しく交際し、構成員と深夜まで交遊したり、その車に同乗し数回にわたり暴走に参加し或いは構成員らとともに多数のディスコに出入りし、また構成員B方にしばしば外泊しているものであるが八月乃至九月の間ディスコ○○○へ遊びに行つたり、B方に外泊したことは多く、その月日は証人自身判然とせず、自らキープした酒の種類や九月九日当夜に同席したとするOがキープした酒の種類を知らないことからすると、同人の九日深夜から一〇日未明にかけての少年主張に沿う証言部分は上記1掲示の証拠に照らし措信できない。

2  証人Bの証言

Bの証言によれば、同人は家業の○○飯店を手伝うかたわら○○○の構成員として暴走に参加し、同人方へ遊びに来る○○○の構成員の少年、J、Aらを店舗二階の自室にしばしば宿泊させていたもので、ことに九月には多数回にわたり少年を含む多数を宿泊させたことがあり、九月九日夜に少年らを宿泊させたか証人自身判然と記憶していないものと窺われ、少年主張に沿う一部証言部分は措信できない。

3  少年の当夜の行動についての供述

少年は、九月九日午後六時Aとともに保護司宅へ行き、その後同人と名古屋市中区○のディスコ○○○へ行き閉店まで遊び、翌一〇日午前二時三〇分頃AとともにB方に赴き同人方で宿泊した旨供述する。

しかし少年のディスコ○○○へ遊びにいつた九月前回の月日、回数についての供述は判然とせず、Aの証言とも相違している。ところで少年は、自ら述べるとおり五二年九月○○○加入後、定例の参集日にはほとんど参加し、本件事件前の九月二日、また事件後の九月一六日、九月三〇日にも○○○の構成員とともに暴走に参加しているものであり、九月九日夜の×○連合への報復のため通常多数人員の参加を求められ、また証拠上発端となつた×××の構成員において他の暴走族に参加を強く求め、○○○の構成員多数がこれに応じ参加している事実からすると、これまで定例の参集日には暴走していた少年が本件事件夜のみこれに加わらなかつたことは直ちに首肯できず、少年の供述は上記I指摘の証拠に照らし措信できない。

(処遇事由)

1  本件は暴走族グループによる集団非行で総勢二〇〇名位が参加し、大挙暴走しつつ海津及び大垣現場へ至り×○連合の暴走族員と認めた者を襲撃し車両を破損し、或いは車内にいた者を殴打している一連の事件で、少年の加入する○○○は×○連合の報復の話に応じ、本件当夜これに加わり、率先して現場における襲撃に加わつている。そして少年は、一連の事件につき積極的に行動している。

2  少年は、昭和五二年九月頃暴走族○○○に加入し、その制服制帽を購入し、定例の参集日である第一及び第三土曜日に名古屋市中村区○○通りの喫茶店「○○」に他の構成員と同様集合し、各部を改造した自動二輪車一〇数台、普通自動車数台を連ね、少年自身は構成員の自動二輪車の後部に同乗して、名古屋駅前、名東区、一社、○○町の○○公園前などを急発進、急停車、急転回したり、センターラインオーバーをくりかえすジグザグ運転、高速度走行、信号無視の走行を繰り返し、翌五三年春からは第二及び第四土曜日に集合して上記場所ほか知多郡内海方面を暴走運転し、同年九月初め○○○の旗を作り、同年九月二日名古屋市内の暴走族△△△、×××、○×△、○×○などの暴走族約五〇〇名位と一社に集結し、その後海部郡の鍋田干拓地方面へ暴走し、本件事件後の九月一六日×○連合に報復するため暴走族×××の集合する金山へ行き合流し鍋田方面まで暴走し、九月三〇日○○○の構成員と集合し内海方面へ暴走した。

3  少年は、名古屋市立○○中学校在学中、学業が振わず学習しようとせず校内で粗暴な行為を重ね、近隣の不良友達と交遊し、喫煙したり、シンナー吸入し、昭和四九年八月友達と中学生を殴打し金を喝取しようとした傷害恐喝未遂を犯し補導され、翌五〇年八月自転車の占有離脱物横領、同年一〇月自転車盗を犯し翌五一年一月保護観察に付されたが、同年二月シンナーを吸入して補導された。

少年は、五一年三月中学校を卒業後○○電機工事で五三年五月頃まで、次いで家業の土木建設業に従事していたが、その間土曜日などに従前からの友達であるB方へしばしば出入りし、友達とシンナーを吸入したりディスコの○○○ほかに出入りし飲酒喫煙し、B方などに外泊し、また○○○の構成員として暴走していた。そして保護司方へ出頭するも、自己の生活状況について正しく報告しなかつた。

両親は少年の上記問題行動に対し適切に対処せず放任していた。

4  少年の能力、性格特性や行動傾向は、鑑別結果通知書及び少年調査記録記載のとおりである。少年は、自己中心性や自己顕示欲が強く、小学校時から近隣の不良友達と交遊して粗暴行為等を犯し、中学校卒業後仕事に従事するも遊興にも著しい関心を持ち、不良交友を続け顕示的に振まい、ディスコ出入り、暴走族加入、度重なる暴走を繰り返してきた。

5  以上のとおり少年の犯した非行は悪質であり、これまで多数回暴走に参加しており、保護観察によるも規範が内面化しておらず、少年の性格及びその生活状況、保護者の保護能力からすると、この際主文掲記の少年院に送致し矯正教育を施すのが相当である。なお、本件非行の内容、共犯者との処分の均衡からすると短期処遇課程が相当である。

よつて少年法二四条一項三号、少年審判規則三七条一項、少年院法二条三項を適用して、主文のとおり決定する。

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